審査講評

生活の基本・生まれる自信
用具の特性生かした線質、造形の美しさ

栁下 昭夫  中央審査委員長 (一社)全国書写書道教育振興会会長

 

 硬筆で手書きする機会が少なくなったといわれるこのごろですが、どうしても手書きをしなければならない場合が案外あるものです。そしてそれは、人生を左右するといってもよい大事な時が多いものです。特に最近の入学試験は手書きの回答を重視するようになっています。「正しく読みやすく速く書く力」を身につけて置くことは、入試に対する自信にもなります。

 硬筆の書写力は、特に小学校低学年時代の練習が大切です。正しく書きやすい用具の選び方使い方、なめらかな運筆でていねいに書く態度や技能は生涯にわたって生きていきます。低学年では、特に運筆に慣れ、字形を整えて書こうとする意識を育てることが大切です。学年が進むと、複雑な字形の文字も多くなって来ます。点画の方向、部分と部分との調和と組み立て、整った字形感覚の育成に特に注意したいものです。中学生から、高・大・一般の方々の作品は、小学生から大きく飛躍し、格段の相違を感じました。洗練された美しい線質、文字の流れ、配置、配列、余白の生かし方と、作品の細かい点にまで心が行き届き、そのすばらしさは心にしみました。「継続は力なり」としみじみ実感しました。

 このコンクールの作品が一つのモデルとなって学びを深め、練習を積み重ねて書写する喜びを味わっていただけたらと思います。
指導にあたられた先生方に敬意を捧げるとともにご支援下さるご家族、ご関係の皆様に心より感謝し、本コンクールのますますの充実、発展を期待したいと思います。


天然の美を硬筆で書写したコンクール

加藤 達成 (一社)全国書写書道教育振興会学術顧問
毎日書道会書教育顧問

 令和元年の初秋、第35回全国硬筆コンクール中央審査会が厳粛の中で新宿文化センターで開催されました。本展への総出品点数16,080点に達し、全国の名称の如く、47都道府県と海外からの応募を見ることが出来て、35回の長き歴史と実績が高く評価された賜と喜ばずにはいられません。硬筆の手書は国内外を問わず、日常万人が共有する文化活動です。真・善・美を求めて人間形成の一因となる書写・書道は、本展の”めざす”事業です。
先ず、第一次の予備審査から始り、厳選の末、優秀な作品、即ちグランプリ賞の候補に絞られ、コンクール最終の審査となります。中央審査会は、学習指導要領に準拠して、審査基準を厳守し、公平厳正を旨として鑑別審査に当たりました。
ご入選、ご入賞されました皆様「おめでとう」
一億の国民の生活のなかで日常使用する文字は、通常の硬筆によるもので、硬筆能力は、国語による伝達力は極めて重要です。学校教育、家庭教育、社会教育引いては生涯学習に欠く事の出来ない分野であります。硬筆の普及発展を力説、単独のコンクールを開始されたのは、名誉会長吉田宏先生御夫妻でした。先生の達見に万福の敬意を表します。
今回の中央審査会では私は、大学・一般・シニアの三部門で吉田享子先生達と審査に当たりました。
(1)大学の部
大学・専門学校を対象とした学生作品で、課題は「規定と自由」の硬筆芸術表現で、大学生の心・技の両面に、豊かな個性美と詩的叙暢が湧き、天然の美しさを硬筆で表白する素晴らしい逸品、甲乙付け難く、特に草書体は、自然の美と文学性が同化した素晴らしい作品群でした。中でも自由課題で、古今和歌集序文をテーマにした作品仕上げは、毛筆文化と硬筆文化の用美一体化を果した高度な芸術と感服させられました。
特筆すべき事項は、字間と文節の余白、行間の整正のスパン。情操感覚の成果と称賛。次は、リズム感に溢れていました。
(2)一般の部
成人、社会人、家庭と、老若男女総ての層からの出品作品を対象とする部門です。
規定、自由の両課題が並立、日常生活の中での文学、宗教、人生が滲んでいました。
優秀な作品群で驚嘆しました。又作品は多様で、縦書き、横書き、インクは黒・ブルーと二色が用られ、出品者の趣向が重視され予備審査の適正化と絶賛して止みません。
自由課題、金子みすゞ「美しい町」、文部省唱歌「故郷」を取り上げた作品には、筆者のぬくもりが感じられ、今回のテーマが全国に浸透、「自然の力、自然の美」を敬慕、感謝せざるを得ません。硬筆による、個性美は日常普段着で、人柄が表出して魅力的な作品群でした。
(3)シニアの部
世に言う 超高齢者を対象とした部門、七十五才以上の翁・姥の作品で、硬筆を駆使した人生の生証人の力作でした。
草体、楷行体と規定作品が並びました。八十三才の御高齢の出品作品には驚きました。バランス、筆力、余韻も豊かで、候補作品は甲乙つけがたく、審査の段階で、作品を通して、お丈夫でお幸せにと祈らざるを得ませんでした。
次回は九十才、百才に亘る出品者を望む所。人生百歳時代 95才の審査員より


「硬筆美の精華ここに集まれり」

長野 秀章(竹軒)  東京学芸大学名誉教授

 第35回全国硬筆コンクールは、幼児から大学生、一般、シニアまで網羅された我が国の硬筆美の祭典とも言うべき本展覧会が開催されますことを心よりお祝い申し上げます。また、審査に当たりました一人としてこのコンクールに対する所感を述べさせていただきます。

 このコンクールの特徴の一つとして全国各地、全ての都道府県から参加されておられることが挙げられると思います。この全国規模を網羅されておられるということは、全国に参加される出品者あるいは教室が存在するという事になり、全国書写書道教育振興会の多岐にわたる活動がこの事からも窺い知ることができると思います。そして、どの作品を見ても一点、一画に思いが込められていて緊張感が伝わり、全体的にレベルが非常に高く、まさに〝硬筆美の精華ここに集まれり〟ということを強く感じられました。人類にとって手書き文字は人の想い、心を伝えるツールとして人間の生活と密な関係で発展・継承されてきました。タブレット端末やスマートフォンの普及により、人の日常生活と手書き文字との関係が乖離してきている現代において、この全国硬筆コンクールは、手書き文字文化の魅力を再確認できる素晴らしい祭典であると改めて思い知ることができました。また、2020年(令和2年)4月より、小学校の新しい教育課程が施行され、低学年における水書用筆等を使用しての新しい硬筆指導がスタートしますが、この新学習指導要領に準拠した教えが出来る数少ない団体の一つとしてこれからも期待しております。

 この度、受賞された児童、生徒さんはじめ一般の方々を普段からご指導されておられる先生方、さらにそれらの学びを応援していただいているご家族の皆様方に対して、心よりの祝意を述べさせていただくと共に、これからも益々このコンクールが発展されますことを祈念いたしましてお祝いの言葉といたします。


練習は困難を喜びに変える力

吉田  宏  (一社)全国書写書道教育振興会顧問・大会委員長

 全国硬筆コンクール入賞の皆さんおめでとうこざいます。
本年も、日本全国を初め、海外で生活をするお友だちからの出品もあり、ますます活気あふれるコンクールとなって参りました。
硬筆は文字数も多く、作品の仕上げにはより集中力が必要です。この受賞者名簿に掲載されている作品を書き上げた皆さんは、日々半歩余分に努力されたことが、より良い結果を実らせたのです。
上位賞の作品ともなると、真摯(しんし)な息遣いが作品に吹き込まれ生き生きと輝いているように感じます。
「流れる水は腐らず」と言います。皆さんの書く力も同じです。コンクールの賞は結果であり、一喜一憂することなく、常に止まることなく成長を続けて欲しいと願っています。
最後になりましたが、本コンクールを開催するにあたり、多くのご尽力を賜りました関係者の皆様、ご指導にあたられた指導者の皆様、またいつも温かいお心で子どもたちを送り出してくださる保護者の皆様に感謝申し上げます。


審査会に参加して

加藤 俶子  日本武道館勝浦研修センター講師

 第35会全国硬筆コンクール中央審査会に参加させていただきました。
そして、入賞されました皆さんおめでとうございます。

 今回、中学生の審査を担当させていただきました。全国各地より多くの作品が寄せられ「文字を正しく整えて読み易く書く」という事を考えながら、一字一字ていねいに、精神を集中させ全体をまとめたと見られる作品が多く、審査をしていて大変、嬉しく思いました。

 少し気になりましたのは、課題を構成する文字の大きさです。漢字は大きめ、仮名は少し小さめに書くという事が基本ですが、漢字と仮名の大きさが同じ作品が多々あり、字形が整っているだけに残念に思われました。又、文字の中心を考えたり、名前の位置、大きさに配慮を加えることで、もっと素晴らしい作品に仕上がったのでは、という感想を持ちました。

 次回も今回以上の方々の御参加、受賞されました皆さんも更に練習を重ねられ、すばらしい作品を出品して下さる事を切望致します。


中央審査を終えて

永島 國雄  元東京都小学校国語教育研究会書写部長

 

第35回全国硬筆コンクールに受賞された皆さん、おめでとうございます。

 近年、日常生活や仕事の効率化・便利さから、パソコンやスマートフォンなどの普及により文字を書くことがめっきり少なくなってきました。一方手書き文字を見る機会もへり、私達の身の回りの大部分は活字文字等のデザイン文字になりました。
このような中で、今年も幼児からシニアの方まで、たくさんの応募作品が寄せられ、たいへんうれしく思いました。指導された方々保護者の皆様には感謝を申し上げます。

 今回は小学生の中・高学年を中心に審査をさせていただきました。各学年の作品に共通して言えることは、文字を一字一字丁寧に書き、字形やとめ・はね・払いなどにも注意がはらわれた作品が多く見られました。一見しただけでは優劣をつけがたく評価に苦慮しました。最終的には、文字の形、文字の大きさ、行の中心、けい線に対する文字の大きさ、上下の余白など総合的に判断させていただきました。
次に審査をしながら以下のいくつかのことが気にかかりました。
・「聞く」の門がまえは、左右の長い縦画の方向が傾いている。門がまえとその他の部分の位置は大きさのバランスが取れていない。
・「日」を大きく書きすぎている。
・「本」の左右の払いが長すぎる。
しかし、「送」のしんにょうは、なかなか形が取りにくいのに、ほとんどの作品がよく書かれており感心しました。

 最後に入賞された皆さんは、かなりの実力を身につけています。一掃の書写力向上のためには、よい手本との出合いと日々の努力が大切です。次回は更にすばらしい作品が見られることを期待しています。


「読み・書き・ソロバン(計算)」を大切に

浅井 幸夫  元東京都中学校書写研究会長

 第35回全国硬筆コンクールは人口減から応募総数が減る中、全国47全都道府県から数の多寡(多い少ない)の差はありましたが全て応募者があったことは、大変喜ばしいことと思い今後も毎回同様であって欲しいと願います。
そんな中今回入賞の皆さんおめでとうございます。

 久し振りに中学生作品を審査してそのレベルの高さに圧倒されました。作品の殆どが行書でかなり書き込まないとあれだけの作品は書けません。中一でも圧倒的に行書が多く二三年生の作品と劣らない作品の中から、何とか楷書の作品の優れたものを見出そうとしましたが、日常的に多く使われる行書に移行している傾向が中学生の応募にも現れているように思いました。

 そこで小学生の作品も見せてもらいましたが楷書が輝いて見えませんでした。私はその原因は「文字を正しく、美しく整えて書く」ということが不足しているように思います。小さい頃からすでにスマホやパソコンをいじっていると文字は書くものという考え方が無くなって来るように思います。AIの発達が著し過ぎて本来人間がもっとやらなくてはいけない基礎基本が欠落しているように思います。「読み・書き・ソロバン(計算)」を小学生の低学年から徹底して行くべきと私は思いました。日本語もできていないのに英語を教えて何の役に立つのでしょう? 日本の文化はどうなるのでしょう? 外国人の中には日本の文化をよく理解し憂いている人も多いと思います。国文化はその国の骨格です。基礎基本の反復練習を忘れず、更に向上するよう期待いたします。


姿書の書き方について

吉田 享子   (一社)全国書写書道教育振興会副会長・日本書写書道検定委員会会長

 第35回全国硬筆コンクールに入賞された皆さん、おめでとうございます。年々受賞作品のレベルが上がり、出品されている皆さんが本大会とともに実力をつけていただけていることは、本大会の開催意義でもあり大変うれしいことです。この大会に出品されるにあたり、1枚1枚の努力した経験もこれからの未来に生かされることを願っています。

 今回、大学・一般の部門の草書のお手本について、やや自己流に見てしまったのではと思われる書き振りが見かけられました。同じお手本を見ても正しく書いていらっしゃる方もおり、改めて草書の書き方の難しさを感じます。その文字が他にどんなくずし方をしているかを調べ、理解していただくことが大変重要になります。草書をお書きになる際はぜひ文字を調べ、様々なくずし方を理解し間違いのないようにお書きください。
また、お手本は「参考手本」ですので、くずし方などについてご自分の好きなくずし方に変えていただいても構いません。一生懸命に作り上げられる作品が、ご自分の気に入った1枚になるように作り上げてください。

 最後になりましたが本大会をご支援くださいます皆様に心よりお礼申し上げ、次年度も多くのご出品をお待ちしております。


美しい線質

中里 久乃   日本書写書道検定委員会審査副部長

第35回全国硬筆コンクールに入賞された皆さんおめでとうございます。

 今年は、全国すべての都道府県からの応募があり、たくさんの力作が揃いました。
今回は高校生の作品を中心に審査させて頂きました。罫線のない規定用紙に余白の取り方、文字の大きさ、配列などをよく考慮してある甲乙つけがたい素晴らしい作品ばかりでした。さらに上位の作品は、細かなところまで気を配り、全体のバランスも良く、線の強弱の出ている線質の美しい作品でした。

 練習量が線質に表れています。小さい頃からの積み重ねた練習と努力でこのような見事な作品が仕上がったことと思います。
また、筆記用具の選択も重要で、同じ作品でもペンによってかなり違って見えます。自分に合った用具を見つけてその特質を十分に生かしてみてください。
幼児小学生の鉛筆も筆圧のかけ方によっても変わりますが、学年に合った自分の書きやすい鉛筆を選択してみてください。

 今回の中央審査会(最終審査)の前の二次審査で、出品規定「中学生以上は鉛筆以外の筆記用具」となっているのにもかかわらず、中学生の作品で鉛筆での作品が多数あり、残念ですが良く書けている作品でも上位には上がらないものもありました。各団体の先生方には出品規定を良く確認の上ご指導していただければと思います。
これからも日頃の練習を大切にし、美しい文字が書けるよう努力してください。次回皆さんの成長した作品を楽しみにしています。