第44回 全国学生書写書道展
当法人では、文部科学省の学習指導要領に基づいた書写教育の普及に寄与することを目的とし、年間5つの全国コンクールおよび展覧会を開催致しております。 「全国学生書写書道展」は、学生の皆さんが夏休みの期間に練習を重ねた最上の毛筆書写書道の作品を出品いただく全国展です。作品締切に集まった応募作品は、中央審査委員の先生方により、厳正かつ公平な審査が行なわれ、各賞が決定いたしました。 審査委員の先生方および特別賞受賞者のコメント・作品掲載は下記よりご覧ください。ネット展は現在開催中です。表現力を高め情緒を深める書の力を
中央審査委員長 (一社)全国書写書道教育振興会
会長 栁下 昭夫

全国各地で開催される席書決勝大会という他に類を見ない全国学生書写書道展も、今回は、新型コロナウイルスの感染拡大という予想もしなかった異常事態に、公募作品のみの書写書道展となってしまったことは残念ですが、公募作品が前回よりも多くなったことは、ひとつの救いでもございます。参加されたみなさん、指導にあたられた先生方も戸惑いをお感じになったことと思いますが、異常事態にも適切に対処し、ご支援、ご協力をいただき、立派な書写書道展にできましたことを、心より感謝いたします。
幼児から小、中学生の作品も、筆づかいに習熟し、のびのある線質、整った字形、気力のこめられた作品が上位に選ばれたことは嬉しいかぎりです。しかし、ひらがなの結びやおりかえしの筆づかいで、一筆で筆を運んで書くところを、何回か筆を置きかえて書いているように見える作品もありました。結びやおりかえしの筆づかいには特に気をつけて書いてほしいと思います。毛筆で大きく文字を書くことは、はねやはらいの筆づかい、点画の長短や組み立てなど、字形のバランスにも気をつけ、文字を正確に覚えるうえでとても大切なことです。正しく整った文字は、書いた人の気持ちまで伝わり、読む人の心にしみます。高校生の作品になると、墨の濃淡、行の整え方、余白の生かし方や紙面への収め方が大きく表現に関係します。
この書写書道展には、「松尾芭蕉記念賞」という、他に類を見ない賞もあります。毛筆作品は、ただ、文字を書けばよいというだけでなく、書くことばの意味を考え、イメージをひろげ、内容を深く味わいながら、作品をまとめて書写してほしいと願っています。文字を正しく整えて書く力とともに、ことばを豊かにし細やかな情緒を育てていただき、この書写書道展がみなさんの生きる力になってほしいと思います。
自学自習の力作、書法を超えた挑戦作品は素晴らしい
一般社団法人 全国書写書道教育振興会学術顧問
毎日書道会書教育顧問
加藤 達成

革新オンライン審査会第四十四回本展にご入賞の皆さん、おめでとう。
令和の危機、「新型コロナウィルス禍」の世上は、学校休業、私塾休室となり、新しい様式の教育再開となりました。児童・生徒・学生は、分散登校、オンライン学習等の教育機器による、長期の自宅学習、自己実現の継続、苦難の中での出品作品の研鑽と情熱に燃えた出品者全員に敬意を表します。
本大会は、審査会員の安全・安心を確保の為、代表理事吉田真氏、理事各位の熟慮の処置、IT機器を使用した「ソフト開発」などの施工方法は誠に適切な運営であったと感服いたしました。
私は、本大会最終審査、優秀候補の実物作品、高等学校、大学両部の作品審査を担当しました。日時場所は、三密、安全の配慮にもとづき、自宅の書道教室、十月上旬に、全書会副会長吉田享子先生、本部職員齊藤由絵氏、同河口真衣氏の監理の元で約2時間を費して審査を行いました。
◇ 高等学校の部
実物作品は各学年とも、本会提示の参考課題
A 漢詩「志気之帥也」
B 俳句「五月雨を集めて早し 最上川」
の半切作品、各学年上位3品を鑑別、九点の実作は、高等学校学習指導要領、書道各科目、表現の指導事項、全般に亘り習熟、高校生に相応しい躍動美、清純性に富んだ力作ぞろいで甲乙つけ難いすぐれた作品群でありました。特質すべき表現は、一幅の縦書に、変化に富む構成美と、文意を個性化した自由闊達な表白に感銘を覚え、さらに偏に自粛、家庭学習による自己実現の成果の大輪が咲いた作品、厳正の中で序列を判定しました。
十一月十三日は、芭蕉祭だなと、俳聖を懐う。
◇ 大学の部
全国の大学では、オンライン授業による教授法が展開されています。ソーシャルディスタンス(social distance)による部活が定着。書道作品が創作されています。書道専門課程、部活、特技趣味等の競演の場である本会の出品上位作品は、流石に素晴らしい力作で、精熟された実作でありました。
作品分野(表現)は臨書、創作に大別され、創意工夫と未来性に富んだ、巧妙な域に達した優秀作品群で、特質すべき事項は
A 臨書 (一)漢字法帖が古典より近代に移り、明・清両紀に亘る斬新な書風の名筆
(二)仮名の法帖、独自性の強線に着目した個性美の書風
B 創作 基本的技法の上に、個性美、自在美を強調、多変、生氣の表白。
A・B共に、自己開発探求を目指した力作、大学の部は、過去に例のない、張瑞図(飲中八仙歌)針切(重之の子の僧の集)の課題作品は逸品でありました。
最終審査の任に当る重責に終涯をかけ、果した成熟感は、名誉と喜悦の翁であります。
審査を終えて
前文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官
加藤 泰弘

第44回全国学生書写書道展に力作を出品されました皆様、ありがとうございます。また、受賞された皆さん、心からお祝いを申し上げます。今年は、コロナウイルスの流行により、あらゆる場面でデジタル化の遅れが指摘されましたが、一方で、人と人が直接会って、ふれあうことの価値や意味を再認識させられました。
文字を書くことは、筆と紙の「ふれあい」です。紙面のどのような場所に、どう書けば良いかを考えながら、そーっと始筆し、筆と紙がふれあいながら送筆し、やがて終筆します。そして、その終筆は、次の点画の始筆に向かう出発点でもあります。この、連続する運動によって、文字が形作られます。
審査にあたっては、字形や配列の確かさにも注意しながら、特に今回は「運筆」に着目し、皆さんが書いた作品の一点一画を、丁寧になぞるように見ました。そうすると、皆さんの書いている姿がまざまざと浮かんできました。出品された作品が、日頃の練習の成果から生み出された渾身の一作であると感じ取れました。どの作品もレベルが極めて高く優劣を付けられないほどでした。
今回、本書道展に出品することで、皆さんの文字を正しく整えて書く書写力、書道の表現の能力が高められてと思います。幼稚園、小・中学生までの皆さんはその確かな書写力を普段の学びや生活に生かしてください。高校生以上の皆さんは、毛筆文化の価値を考え、それを社会に広げてほしいと思います。
手書き文字を機器を使って審査する
元東京都中学校書写研究会会長 浅井 幸夫

コロナ禍の中応募入賞された皆様おめでとうございます。
混沌とする中で墨を磨り、筆を取り、文字を書くという行為もできいにもかかわらず、勇気を持って継続公募された方、席書が中止になり断念せざるを得なかった方と二分されるようになってしまった事態が一日も早くし、平常に戻る日を期待しましょう。
審査方法も今回は特別で、パソコンを通じてのオンライン。アナログ世代の審査員の私にとっては大仕事でした。手書き文字を機器を使って審査する。一見矛盾するような事態に思わず苦笑。若い皆さんにとっては、日常的にスマホを使い熟し、相手の都合も考えず一方的に連絡して来る電話を避け、ラインを通じて伝達し意志の疎通を計るようなエチケットが、知らず知らずの中に身に着くのは非常に良い事だと思います。私達はそんな事まで意識して行動しているわけではありませんが外国の人にとっては日本人の奥床しい行為と受け止められる一面もあるように感じます。
言葉づかいも簡略化したり、誤用と思われる使い方も誤用と思わない人が増えています。時代と共に言葉が変化するのはごく当り前のことで、古い人間がそれをなに拒み続けると、時代遅れと言われそうです。
とにかく急速に変化する時代の流れる中で取り残されぬ様努力(若い人の声「そんなもの努力のうちに入らないよ」)しないと生きていけそうもありません。そろそろ年貢の納め時かな? この言葉も死語になりつつあるのかな? まあ古い物(者)と新しい物(者)がうまく融合しながら推移していくことでしょう。
「審査にあたって」
女子美術大学講師
加藤 泰玄

第四十四回「全国学生書写書道展」に入賞された皆さん、おめでとうございます。今回は新型コロナウィルス感染症の影響で全国的に書道活動が減退し、不安に駆られる毎日が続きました。しかし全国書写書道教育振興会の吉田代表をはじめ、副会長の琴泉先生や会の方々の強い熱意と尽力により、今年度の書道展が開催されたことを大変嬉しく思います。また独自開発による審査アプリを使用して、ネットによるオンライン審査会を実行されたことも、時代の先端を行く素晴らしい試みだと感心いたしました。現代の通信技術とアイデアを余すことなく駆使していくマネジメントは、これからの新しい書教育のスタイルを築いていくものと確信するものであります。
さて今回の審査方法は各項目ごとに細部に渡って審査基準が設けられており、それに基づいて慎重かつ厳正に行われました。
高校・大学での毛筆の上位作品は、字形・線質・布置・章法などが一貫して充実しており、臨書作品では古典の書風が的確に表現され、創作では全体の構成・変化と調和が見事に融和し、芸術性の高さと技法の熟成を感じました。
いずれにしても甲乙付け難い審査状況で、平生のお手本に対する観察力や分析力が卓越していた結果と思います。これからも硬筆・毛筆ともに一層の錬磨と益々の向上を期待します。
本大会開催にあたり
一般社団法人 全国書写書道教育振興会副会長
日本書写書道検定委員会会長
吉田 享子

入賞者された皆様、おめでとうございます。本年は新型コロナウイルスの対応の中での出品となり、それぞれの皆さんがご苦労なさったことと思います。1枚1枚の地道な努力が、立派に実を結ばれました。
本年の全国学生書写書道展は、コロナ禍真っ只中での開催となりました。この状況を踏まえて、開催するのか来年度に見送るのかは大きな課題でした。熟考を重ねた上で、三密を避けられない席書大会の開催について、本回は中止とすることとなりました。席書会場を確保してくださっている先生方には、大変なお手間を取らせてしまいましたがスムーズな対応に心より感謝申し上げます。
コロナによって日常を奪われてしまった子供達の異変がニュースなどで報道される中、公募大会の開催はなんとかできないかと検討が始まりましたが、今度は審査していただく先生方の安全確保が課題となりました。こうした全ての課題をクリアにして開催するにあたり審査には全書会独自のシステムを開発して行うことで、公募大会を行うこととなりました。
開発にあたっては、本大会の後援団体である日本パソコン能力検定委員会の皆様にご協力いただきました。システムの構築はもとより、実際の作品と審査アプリ上の作品とがほとんど変わりなく表示することには、多くの時間と工夫をかけていただき大変な労力をかけていただき、公募大会の開催に至りました。
今回の審査の特徴としては、先生方にじっくりと1つ1つの作品を見ていただくことができ、さらに拡大してみていだだくこともできるようになり、筆の運び方やなぞってしまったところなどがよくわかるようになりました。中央審査にあたっていただいた先生方には、本当に丁寧に作品を見ていただき評価していただけましたこと、心より感謝申し上げます。
また、最終審査では柳下会長・加藤学術顧問に実際の作品を時間をかけてみて見ていただき、特別賞が決定確認をしていただきました。
コロナ禍の中で出品していただきました皆様、開催に尽力してくださった皆様‥‥数々の課題を乗り越え本回が無事に終了しましたことに心から感謝申し上げます。
文字は大切な自分の宝
日本書写書道検定委員会審査副部長
中里 久乃

第四十四回全国学生書写書道展に入賞された受賞者の皆さん、おめでとうございます。
今回は大会が開催されるにあたり、新型コロナウイルス感染症が予想以上に長期間になった為大きな影響を与え、残念ながら席書大会は中止となり公募のみとなりました。ご指導される先生方や練習に励む皆さんもいろいろと大変だったと思いますが、その中入賞された皆さんの作品は、一生懸命練習に励んだ努力の成果が伝わるすばらしい作品でした。また、海外四ヶ国からの出品もあり喜ばしく思います。
今回の中央審査は、いつもと違った型式でアプリを使ってのオンライン審査で行われました。一つ一つの作品を自分で細かな所までゆっくり何回でも見ることができました。今回は、幼児から小学生を担当させていただきました。
幼児、低学年は、課題の文字数に応じて文字の大きさ、形、筆圧、全体のバランスが重要となります。線が細い作品は印象が弱くなるので、しっかりとした筆圧で基本点画ができている作品が上位に上がってきました。仕上げの名前も配置に気をつけて書けている作品は立派でした。
高学年は、漢字も多くなり、一つ一つの文字の基本点画、中心の取り方、配列などの習熟度が重要となります。上位の作品は、漢字と仮名及び全体のバランスも良く筆使いも見事でした。
一点一画丁寧に書いてある作品は、何か伝わってくるものを感じます。
文字はこれから先もずっと必要な大切なものです。小さい頃からの練習の積み重ねで「正しく整った読みやすい文字」を身につけてください。そして身についた文字は自分の大切な宝になると思います。 また来年も、一歩前進したさらなる力作を楽しみにしています。
文部科学大臣賞
特別名誉大賞
学年優勝杯
松尾芭蕉記念賞
●入賞者数一覧
