第34回審査講評

生涯に生きる練習の積み重ね

栁下 昭夫  中央審査委員長 (一社)全国書写書道教育振興会会長

 

 携帯電話、スマートホンなど、通信方法も多様化し、手で文字を書く機会が少なくなっているといわれるこのごろですが、今年も、全国各地の皆さんから、優秀な作品が多数寄せられ、まさに日本一とも言える立派な全国硬筆コンクールにできましたことを、心より感謝いたします。

 特に学年が進むにつれて、作品の質も一段と向上し、このコンクールを一つの目標として練習を積み重ねておられる皆さんのご努力をひしひしと感じ、このコンクールの果たす役割り、大切さをしみじみと感じております。中学生の作品になると、硬筆書写のお手本のようです。高校、大学生の作品ではどう順位をつけたらよいか迷うほどでした。シニアの方々の作品も見事です。字数や書体に応じて用具を選び、その用具の特性を生かした運筆の速度や筆圧の強弱、そこから生まれる線質の美しさ、リズム感には心を奪われました。文字の大小や行の整え方、余白の生かし方まで気をつけた美しい紙面構成には心が洗われるようでした。一点一画にまで全神経を集中して作品制作に取り組んでおられる皆さんのお姿が目に見えるようです。硬筆で文字を書くということは、文字を覚え、正しくわかりやすく書く力をつけるということだけではなく、我が国の伝統文化としての漢字仮名の美しさを味わい、美意識を育て、生活を豊かにしてくれるかけがえのない生涯の宝物ではないかと思います。このコンクールが皆さんの学びを深め、皆さんの生きる喜びに少しでもお役にたてるようにしたいと思っております。

 


手書き文字の大切さ

長野 秀章  東京学芸大学名誉教授

 第34回全国硬筆コンクールの開催心よりお喜び申し上げます。

 また、全国から幼児から大学、一般まで多くのご参加をいただき、その中で入賞、入選されました皆さん、保護者の皆様、日頃よりご指導されてこられた指導者の皆々様に対して心よりお祝いを申し上げます。

 課題も学年や発達段階を踏まえ、高校、大学、一般などは日本の詩歌や散文、中国の漢詩の読み下し文まで、いろいろと工夫を凝らし、また使用された用具も多岐に渡り、主催者の努力と、出品者の練度、熱意が上手に噛み合った素晴らしい作品を選出することができました。

 このように、硬筆用具を工夫した「手書き文字」のコンクールには、IT社会、印字文字社会全盛の中にあって大変貴重な場であり、まさに我が国の文字、手書き文字文化を継承するとても大事な場だと思います。

 段々学年や年令が上がるにしたがって、お勉強やクラブ活動はじめ加速度的にこのような「手書き文字」を丁寧に時間をかけて書く時間も厳しくなるかと思いますが、ご本人の努力はもとよりご家族の皆様の応援をいただき次年度以降も益々充実した大会になることを期待してお祝いのご挨拶とさせていただきます。


自らの力を信じて

吉田  宏  (一社)全国書写書道教育振興会顧問・大会委員長

 全国硬筆コンクール入賞者の皆さんおめでとうございます。

 本年も全国に加え海外からの応募もあり、インターネットを使った手本配信や、用紙ダウンロードなど、どこに居てもどんな時にも環境が整えば情報は伝達されているのだと、出品作品を見て改めて感じました。

 同時に、今年は未曾有の災害により、今現在も避難生活を送られていらっしゃる方々のことを思うと深く心が痛み、被災地の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 さて、今回の出品では、幼児の作品が他学年よりも群を抜いて多く、小学校に上がる前段階での学習準備が各地で浸透していることが感じられました。また、小中学校から大人へと学年を進めても、練習を怠ることなく技に更なる磨きをかけ着実に進歩をされている作品も多数ありました。

 硬筆は文字数が多く、1枚の用紙に作品を纏め上げることが容易ではありません。しかしどうでしょう?この受賞者名簿に掲載された作品はどれをとっても、「正しく整った読みやすい文字」を表現した美しいものばかりです。おそらく、初めからこのように書けた人はいないでしょう。何枚も何十枚も出来ると信じて書き続ける…自らの力を信じる事を自信といいます。そんな力を集結させた時、文字が言葉になり、文になり作品として1つにまとまって美しい輝きを放つのだと感じてなりません。今回掴んだ成果を更に次の段階へと進め、つなげて行っていただきたいと思います。

 最後になりましたが、本大会開催にあたり、中央審査員の先生方、日々のご指導に当たられた先生方、保護者の皆さまに心より感謝申し上げます。


審査を終えて

江﨑 美里  小中学校教科書筆者・カリタス女子短期大学講師

 第34回全国硬筆コンクールで受賞された皆さん、おめでとうございます。

 今回は中学生の作品を中心に審査させていただきました。中学生は楷書か行書の作品を出品しますが、学年が上がるにつれて行書の作品が多くなります。楷書の運筆は小学校で学習してきていますが、行書の運筆は中学校で初めて習うことになります。楷書は直線的で運筆のリズムがある程度一定ですが、行書はやや曲線的で運筆も速い遅いの変化が生まれます。行書を学習する上ではこうしたことをよく意識して書くことが大切ですが、学年が上がるにつれ、たくさん練習を積み重ね運筆のリズムが自然で流れのよい作品が多く見られ、大変うれしく思いました。

 今回少し気になったのは文字の大きさです。漢字は大きめ、仮名は少し小さめに書くということは基本です。又、画数の多い漢字は、少ない漢字よりもやや大きめになります。ですが画数の多い漢字よりも仮名が大きくなってしまっている作品があり、字形がよく整っているだけに残念に感じました。字の大きさが適切であれば大変読みやすくなります。書き上げたあとに文章として読んでみて大きさの不自然なところはないかを確認するようにしましょう。

 次回もたくさんのすばらしい作品に出会えることを楽しみにしています。


心に響く作品

金子 良惠  なの花書道会会長

 第34回全国硬筆コンクールに受賞されました皆さん、おめでとうございます。

 手本の文字を確かめ、運筆の遅速、筆圧の強弱に気をつけ、焦らずていねいに練習し、その成果を発揮することができ、上達の喜びを実感した作品が多かったように思います。

 今回の課題である「四季のある日本の自然と故郷の行事を重視したテーマ」の文章を自分なりに言葉の持つ意味を思い浮かべながら、書かれた作品であることが伝わってきました。

 特に、作品を仕上げるためには、用具の選択が大切です。用具(鉛筆・ペン)を正しく持ち、姿勢を正し、精神を集中させて、一字一字、ていねいに書かれた作品が多く見られましたこと、審査をしていて大変うれしく思いました。

 主として、大学・一般の作品を拝見させていただきました。点画の連続や連綿の細い線まで気持ちを込め、緊張した線で変化にとんだ作品。文字の大きさ、線の太細で表現した作品。配置・行間・字間・余白の美しさまで配慮した作品に出あい、心を打たれました。

 今後も、日常生活の中で、美意識を育て、豊かな感性をはぐくむよう、努力していただければと思います。

 次回も、多くの素晴らしい作品に出あえることを楽しみにしています。


最終審査を終えて

永島 國雄  元東京都小学校国語教育研究会書写部長

 第34回全国硬筆コンクールに受賞された皆さん、おめでとうございます。

 今回は、小学校の中・高学年の作品を中心に審査させていただきました。どの作品もすばらしく優劣つけ難く、大変苦労しました。特に上位作品は、筆使い、文字の形、漢字と仮名との大きさ、行の中心などに注意して書かれており書写能力の高さを感じました。

 さて、皆さんの中には、今まで手本(教材文字)を見ながら書いた作品を先生方に指導していただき、繰り返し練習をしてきた人も多いと思います。

 これからは更に自分の力で上達するためには、自分が書いた作品と手本を見比べ「どこがどのようにちがうか」気づき、「どこをどのように書いたらよいか」をはっきりさせることです。その部分を意識的に繰り返し練習することが大切と思います。

 皆さんがこれまで上達したのは、根気よく努力した結果です。その陰でお世話になった方々がいたことを忘れずにこれからも頑張ってください。


雨ニモマケズ

浅井 幸夫  元東京都中学校書写研究会長

 今年の日本列島は、地震、大雨、台風が各地を襲い大きな被害を各地にもたらしました。被害を受けた方々に心からお見舞申し上げます。その上夏の酷暑、そんな悪条件が続く中でもコンクールに出品入賞された皆様おめでとうございます。

 硬筆は今日では多くの文字を書く場合に使っています。もちろん毛筆も以前は同様な使われ方をしていたのですが、利便性ある各種硬筆が出て来て、毛筆は書初めとか特別な場合しかあまり使われなくなって来ています。

 硬筆毛筆コンクール課題で大きな違いは文字数です。数字でまとめる毛筆課題に比べ、数千字以上ある硬筆課題を書き上げるのには緊張と集中力を持ち続けなければならず、終わると「フッ」と息を吐く皆さんの姿が目に浮かびます。

 おそらく何十枚あるいは百枚以上書いている人がいるでしょう。人間の集中力はそんな長く続きません。同じ課題を同じ調子で書き続けていると、何を書いているのかわからなくなって枚数だけ多く書いている状態になって来ます。そんな時一度手を休め、文字の大きさ、間隔等思いきり変えて書いてみてはどうでしょう。気分転換と同時に思わぬ発見もあると思います。

 また、硬筆には材質の異なるものもあります。自分が今使っている硬筆と違うもので書いたり、色を変えたり、ちょっとした遊び心でやってみるのも楽しいではありませんか。ましてそれが作品上に思わぬ効果が出て来たら……

 そうして、風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ、今後もコンクールに応募し続けることを期待しています。


姿勢と持ち方

吉田 享子   (一社)全国書写書道教育振興会副会長・日本書写書道検定委員会会長

 

   今年の夏は、大きな自然災害に見舞われた年でした。本コンクール出品にあたりましても、ご苦労が多かったことと思います。特に被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。

そして、受賞者のみなさん、おめでとうござます。最終審査に残った皆さんの作品は、どの学年も審査員の先生方を感心させる、素晴らしい作品ばかりでした。IT化の進む現代においてこのように手書き文字を大切に書いている皆さんのすばらしさに感心いたしました。特に上級生のペンの使い方は素晴らしいものでした。これからペン字へと向かう皆さんは、先輩の方々の作品を参考に(作品はネット展でご覧になれます)さらに技術を磨いてください。


身につく集中力

中里 久乃   日本書写書道検定委員会審査副部長

 第34回全国硬筆コンクールで受賞された皆さんおめでとうございます。

 今回は応募期間中に西日本など災害の被害にあわれた地域の方々の出品の減少がありましたが、全国各地より幼児から一般シニアの方々までのすばらしい力作が集まりました。そして最終審査に残った上位の作品は、審査員を悩ませる甲乙つけがたい、練習成果の出ている見事な作品ばかりでした。

 今回は、小学生の中・高学年の作品を中心に審査させていただきました。上位の作品は文字の形、大きさなど基礎、基本的なことがしっかり身についていました。そして更に上位になると始筆、送筆、終筆、筆圧のかけ方、練習を重ねてできた美しい線が見事でした。一方で気になった点としては、鉛筆の選択、筆圧によって文字が細かったり薄いと感じる作品があり、作品全体が弱い印象になってしまいます。その点を気をつけて書くと同じ文字でもしっかり立派に見えてくると思います。

 五年生からは、マスでなく罫線になるので文字の大きさ、配置がとても難しくなってきます。漢字とひらがなの大きさのバランス、中心に気をつけて上下の余白を揃えるようにしてみてください。そして仕上げの時は、作品全体をきれいに見せるにはどうしたら良いか考えながら書いてみると更に良い作品が仕上がると思います。

 このようにして皆さんが一枚一枚真剣に仕上げるには相当の集中力が必要だと思います。このコンクールに出品する為に何枚も練習を積み重ねてきたと思います。この練習によって自然と身についた集中力は、これからの皆さんの色々な場面で生かして役立ててください。

 次回も皆さんの成長したすばらしい作品を期待しています。